東雲のGW北紀行・十勝後志縦横無尽
 (2002年5月3日〜6日・3泊4日)
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【5月4日(土)】その1
 高原の味覚と温泉

  • 6:30 起床。同室の人のいびきか何かで夜中に何度か目が覚めたような気もするが、それでもよく眠れた。少し遅れてもぞもぞ起きだしたT君も、「旅先で寝て、夜中に何回か目が覚めたのは初めて」と言っている。前夜のささやかな宴の始末をしながら、洗面所で顔を洗い歯を磨く。洗面所にはコイン式洗濯機とコイン式乾燥機があるのは、連泊や湯治客のためか。洗面台にシェービングフォーム(ひげそりの泡)まで置いてあるのは、他の宿では見たことがない。……それとも、他の宿泊客の物か。館内の廊下には、鳥の鳴き声(のCD)が流れている。順不同ではあるが、朝日の射さない洞窟風呂へ朝風呂に行く。
     テレビをつけると、STVテレビで「ズームイン!サタデー」をやっている。沖縄出身のおじさんタレントが、香川県である食べ物を探してうろうろしている。お目当ての品物が見事見つかると、同行のスタッフから指令書を渡され、次は羽田空港へ向かうという。訪れた先々では、「朝のテレビに出てる人だ!」とおばさん層の知名度が高いようだが、私は朝テレビを見ないので、知らない。 ……ビデオカメラを連れてあてどもなくさまよい、スタッフから次の指示を受けるという流れは、どこかで見たことあるな、と思ったら、T部長が「電波少年」から「ズームイン」のプロデューサーになったんだっけ。

  • 8:00 手持ちの携帯ラジオをSTVラジオ《※6》帯広の1107kHzに合わせて、「ウィークエンドバラエティー 日高晤郎ショー」のオープニングを聴く。山間なので、窓際に立たないと聞こえないのだが、相変わらずこのオッサンは朝から早口で飛ばしている。連休で各地で渋滞しているというフリから「私は自動車に乗らないんです。自分の性格が運転に向いていないから。負けん気が強いんです。だから、後ろの車に抜かれると『なにくそっ』って気が高ぶっちゃう。こんなことでは安全に運転できそうにないから、十年位前に持っていた外車を売り飛ばしちゃいました。それ以来、車を運転しません。今は馬に乗ってます。(笑) 札幌のスタジオに観客を入れて、朝8時から夕方5時まで生放送をやるのだが、後述のとおり大人気のため、さほど広くないスタジオには希望者全員入りきらない。約2時間ごとにジャンケン大会をやって、入れ替えをやっているのだそうだ。

  • 8:15 昨晩と同じ広間で、朝食。「日高晤郎ショー」を聴きながら食べたかったが、窓際じゃないので電波が入らず、断念。食卓の囲炉裏はフタをされ、焼き魚(シャケ)やイカの塩辛、味付け海苔に梅干しなど、ごく普通の和食の朝ごはんである。前夜“温泉卵”に裏切られたT君は、ご飯にかけて食べるための生卵を所望(別料金)。そば屋「ごまそば 山湖」が宿に併設されているので、夕食か朝食にそばが出るかな、と思っていたが、残念。

  • 9:00 ゆっくり朝食を平らげて、部屋へ戻り荷物をまとめる。朝が強くないT君は、そういえば朝食も寝巻きのままで食べていた。そのまま部屋に戻って横になるや、高いびきである。私はちんたらと荷物をまとめながら、テレビを見る。天気予報は無情にも的中し、早朝から本降りだが、お昼前後にはやみ間も多くなるという。 9:45 もうすぐチェックアウト。廊下からは、他の部屋で掃除機をかけている音が聞こえてくる。風邪気味なのかねぼすけなのか、まだ寝巻き姿のT君を起こして、撤収準備。HBCテレビでは、ゴールデンウィーク遊園地特集と銘打って、ルスツリゾートと三井グリーンランドを紹介している。どちらも十勝からは遠いし、男2人で行くところではない。

  • 10:00 会計を済ませて、チェックアウト。T君は、宿の名入りタオルと、木の枝を輪切りにして切り口に焼印を押したキーホルダーを買い求める。雨は小降りになったが、傘をさしたくなる程度。前日砂利道を走って砂ぼこりまみれだった車は、雨ざらしで洗車いらず、と言いたいが、こんどは雨が流れる跡が幾筋もつきそうだ。作務衣姿のご主人が、「道中お気をつけて」とキャンディやキャラメルを4粒ほど渡してくれた。荷物を後部座席に放り込み、まだ眠いT君は助手席へ、私は運転席へ乗り込むと、ご主人が傘もささずに外へ出てきて、私たちの車を見送ってくれる。細やかな心遣いに、ちょいと感動を覚えた。こんどは、そばも食いに訪れたい。

    上士幌町鉄道資料館
  • 10:15 宿から車で3分ほど、国道から分かれてダムへ下りて行く途中に、上士幌町鉄道資料館がある。士幌線糠平駅の跡地に建つ小ぢんまりとした建物の裏手は、腕木式信号機や貨車などが残されている。広い駐車場に7〜8台止めてあるので、狭い資料館はさぞ賑わっているだろうと思ったが、入ってみると私たちのほかに客はなし。誰がここへ車を止めて、どこへいったのだろうか。
      入口にある入館券販売機は故障中で、奥の事務室窓口で100円を支払い、入館記念券を受け取る。館内は、廃止直前まで使われていたあらゆる鉄道用品や、士幌線の歴史をたどる写真パネルや新聞記事が展示され、士幌線列車の前面展望ビデオも流れる。当然の如く、アーチ橋の写真展示とともに保全を呼びかけるコーナーもある。
       写真右→ 上士幌町鉄道資料館=糠平駅跡。
      毎週月曜日と、冬季(11〜3月)は閉館、入館料100円。


  • 10:30 国道273号線へ戻り、上士幌市街へ山を下ってゆく。糠平以南でも山が迫っているうちは、廃線跡のアーチ橋が残っているらしいが、国道を走る車からはなかなか見えない。やがて、山間から十勝平野の北端へ出てきて、ひたすらまっすぐでほぼ平坦な道を、それなりに飛ばしているのだが、ルームミラーの中のはるか後方にぽつんと後続車の影が見えた。見えたと思ったら、その影はみるみる大きくなり、この車の直後にピタリとついて走っている。そして、思い出したようにやってくる対向車をやり過ごすと、後続車はぴょいと右へよけて、なにげなくこの車を追い越して、はるか前方へ消えてゆく。……両手でハンドルを握り、アクセルを軽く踏み続ける私は、何かの針(何の針かは聞いてはいけない)80100の間を指すのと、“元・後続車”がもはや豆粒ほどに遠ざかったのを交互に見て、あっけにとられるばかりである。

  • 11:00 上士幌市街に入り、 上士幌町交通公園(なぜかパターゴルフ) カーナビの地図とにらめっこしながら、[上士幌町交通公園]へ。ここがかつての上士幌駅だったようで、すぐそばのバス停は「上士幌」と駅名のようであるが、町の中心部にはこれとは別に「上士幌待合所」というバス停もある。バス会社の出張所もあるらしく、もっと大きな町なら「上士幌ターミナル」と名付けられるだろう。
      バス停はバス停として、ここの交通公園は広大な芝生になっており、駅があったことを主張する客車2両は側窓や扉に板が打ち付けられ、なぜかライトグリーンに塗られてある(こういう客車は、紺か茶色だったはず)。そしてさらによくわからないのは、パターゴルフのコースができていること。公園中を見回しても、パターゴルフ用具を貸し出してくれる公園管理事務所らしきものは見当たらず、利用者はマイパターとマイボールを用意しなければならない。……ご当地は、そんなにパターゴルフが盛んなのか??
       ←写真左 上士幌町交通公園(=上士幌駅跡)に置いてある
       だけの客車2両と、パターゴルフのティーグラウンド


  • 11:15 交通公園に展示というよりも放置されている客車2両(形式番号等も塗りつぶされ、氏素性がわからない)に別れを告げ、針路を北西に取る。北海道の公営牧場としては最大規模を誇る[ナイタイ高原牧場]で、ランチに牛を食うのである。北海道の地名はアイヌ語由来なので、カタカナ書きの地名もまだ多いのだが、カタカナで「ナイタイ」と書かれると、サラリーマンのはしくれとしては駅売店で夕方売られる『内外タイムス』を思い浮かべてしまう。そういう意味でも妙な興味を抱くT君とともに、北海道でも日刊紙の『内外タイムス』は売られているのだろうか、夜の情報を扱う『Naitai Magazine』ならススキノ版も売ってるんだろうな、などと妙な思索にふけりながら車はナイタイ高原へ登っていく。あとで道路地図を見たら“内待(山)”という漢字があてられているが、なんだか拍子抜けである。新得のそばの新興リゾート地「サホロ」は漢字で“佐幌”と書くことを知った時と同じくらい、拍子抜けである。

    ナイタイ高原レストハウス
  • 11:30 牧場入口のゲートをくぐり、レストハウスを指し示す看板に従って急坂をクネクネ登りつづけるうち、濃霧の中に突っ込んだ。対向車のフォグランプが10mまで近づかないと見えないという壮絶な状況を脱すると、こんどは小雨混じりの風が強烈に吹き付ける中、ようやく山上のレストハウス(写真右→)にたどり着く。天気が良ければ、レストハウスの窓から一面の牧草地やその向こうの十勝平野まで見渡せるのだろうが、さっき通り抜けてきた濃霧が眼下に雲海として横たわっており、下界がさっぱり見えない。荒天の割りには、館内はなかなかの賑わいで、ソフトクリームをほおばる家族連れが目立つ。牛肉や牛乳を用いた加工食品、お菓子やキーホルダーなどのお土産が並ぶ一方で、焼肉テーブルが並ぶ合間にストーブが暖気を発している。焼肉テーブルでソフトクリームをなめる家族連れをかき分けて、ストーブに近いテーブルに陣取る。メニューに載っている肉は、“サガリ”と“上カルビ”、それにソーセージ盛り合わせと行者ニンニク入りソーセージ。“サガリ”が牛のどの部分なのかよくわからないまま、“サガリ”と“上カルビ”を1皿ずつ、それに行者ニンニク入りソーセージを注文。焼肉を目の当たりにして我慢できないT君は、ビールも1本追加。以後しばらく、彼は運転を放棄するらしい。
      間もなく店員さんが、肉と一緒に瓶ビールを1本、そしてグラスを2つ持ってきた。……2人連れの客のどちらもハンドルを握らずに帰るとでも思ったのだろうか、などと難癖をつけては言いがかりだ。大の男が2人焼肉を食うのなら、2人ともビールも飲むと思うのはごく自然な対応である。せっかくグラスが2つきたので、私も半口だけ。……あっという間に肉を平らげてしまい、物足りないT君は同じ分量を追加注文。ただしビールは追加せず、1本を大切にちびちびと味わっている。
      物価が標高に比例する“山上価格”の焼肉の支払いを済ませると、レストハウスの入口外にある軽食ブースをのぞいてみる。せっかくの書き入れ時なのに、冷たい雨混じりの強風が吹きつけている。フライドポテトやらフランクフルトやら、軽食らしい軽食と一緒に売られているソフトクリームは、なんと『100円〜300円/お値段に合わせてお作りします』と書いてある。実際には100円・200円・300円の3段階で、「今日は風が強いから、300円だと倒れちゃうかもしれない」と店員のおばさんが言うので、真ん中をとって200円分買い求めたら、意外に盛りがよくてビックリ。前日、士幌の道の駅で食べた250円のソフトクリームと同じくらい、あるいはそれより若干大きいかもしれない。ともすれば、300円分はかなりの大盛りになるはずで、「強風時に倒れる」という話はあながち誇大広告でもなさそう。……それとも、風雨にさらされてなかなか売れない(ソフトクリームは中の売店でも売っている)のでオマケしてくれたのか。

  • 12:30 私がソフトクリームに ナイタイ高原牧場の牛の群れ 舌鼓を打っている間、T君は眼下の雲海を望みながら一服吹かしていた。また車に乗り込み――T君はもちろん助手席へ――、山道を下り始めた。そういえば、せっかく牧場に来たのに、牛や馬をまだ見ていない。特に助手席の人が、牛や馬の群れをカメラに納めたがっているので、後続車の邪魔をしないよう……と言っても全然追いついて来ないのだが、ゆっくり走っていると、ようやく牛の群れを発見。非常駐車帯のように道路から張り出しているところへ車を止めると、そのそばにドラム缶を縦に割ったようなエサ箱があり、牛の群れがそこへ寄って来る。私もカメラを向けるが、T君は有刺鉄線の柵のすぐそばまで迫って、しきりにシャッターを切っている。柵には何やら黄色い札が下がっており、有刺鉄線に電流を流してあるという。これで爆薬も仕込んであったら大仁田厚だなぁ、などと珍妙な連想をしているうちに、ようやく柵際から駆け戻ってきたT君はつい有刺鉄線に触ってしまい、その電撃を体感したらしい。

  • 12:50 冷たい風雨と濃霧を通り抜けて、牧場を後にする。ここから[ナイタイ高原温泉・亀の子荘]へは、牧場入口から林道があるようだが、未舗装の砂利道であるうえに、途中が工事中らしいので、いったん高原から下りて上士幌市街からの分岐を入る。すれ違いに慎重にならざるをえないような山道を登ること10分、日帰り入浴もできる[亀の子荘]に到着。 ナイタイ高原温泉「亀の子荘」玄関の看板 フロントで入浴料を支払い、浴場へ向かう途中のゲームコーナーの一角に、小さなショーケースが。壁には、日高晤郎氏の色紙が額に入って数枚、そしてショーケースの中は日高氏のディナーショーのパンフレット等と一緒に、「日高晤郎ショー圧倒的シェア/聴取率8%!」という見出しのSTVラジオ営業資料が陳列されている。首都圏の聴取率調査《※7》では、局の数が多いこともあるけど、トップ番組で3〜4%というのが相場だが、民放4局にNHKもある北海道で8%という数字をたたき出すのはすごい。この、イチローが嫌いで、“YOSAKOIソーラン祭り”を真っ向から批判するおじさんの人となりについては、軍司貞則・著『ラジオパーソナリティ〜22人のカリスマ〜』(1998年 扶桑社)を図書館で借りて読んでみていただきたい。
      土曜の昼間に訪れた温泉宿が日高晤郎好きだという、わかりづらいけど妙な因縁を感じながら、脱衣場を経て浴室へ。前夜の“洞窟風呂”とは異なり本物の岩が配された湯船に、窓が大きくとられた明るい浴室。そして奥には露天風呂への出口と、ミニサイズのメガホン。高原の露天風呂で「ヤッホー!」と叫ぶためではなく、“夜空の星たちをのぞいてみてください”みたいなことが書いてある。……真夏でなければ、夜の露天風呂は寒い。浴室から満天の星空を見ようにも、浴室内の照明が窓ガラスに反射してよく見えない。そこで、メガホンを窓ガラスに当ててのぞき込む、ということらしい。そういう小さな心遣いも含めて、露天風呂・浴室ともに小ぎれいで居心地がよい。十勝地方の無料配布ガイドブックによれば、温泉熱を利用した燗酒を味わいながら入浴できるらしい。
      風呂上がりに、館内の自販機で“道内限定!キリンFIRE ミルクテイスト”を買って飲んでみる。FIREシリーズには珍しいロング缶でお得感がそそられるのだが、一口飲んでみると「甘いっ!」。いわゆるカフェオレを想像していたのだが、間違って牛乳ではなく練乳を入れたのではないかと思った。これだったら、“千葉茨城限定!GEORGEA MAXコーヒー”と一緒である。……釈然としない後味を引きずりながら、フロント隣のお土産コーナーをのぞいてみる。宿の名前にちなんで、亀にまつわるグッズが色々あるが、照明などのプルスイッチの延長コード(ひもを短くすると親亀に小亀が乗っかる)は、安価でシンプルながら「なぜ今まで見かけなかったんだろう」と思うアイディアの勝利で、つい一つ購入。



    《※6》STVラジオ……ラジオなのに「STV」とはこれ如何に? ……実は、STV=札幌テレビ放送は、日本の民間放送事業者で唯一、テレビが先に・ラジオが後に開局した放送局なのである。テレビは日本テレビ系列、ラジオは文化放送やニッポン放送などのNRN系列。ちなみに、日本テレビの深夜「秘密の爆笑大問題」はSTV制作の全国ネット番組。また、FMラジオの音楽番組などでパーソナリティを務め、TBSテレビ「王様のブランチ」音楽コーナーで顔出しもしていた船守さちこは、元STVアナウンサー。

    《※7》首都圏の聴取率調査……東京駅から35km圏内に住む12〜69歳の3000人に、日記形式で(何時から何時までどの番組を聴いたか)記入。テレビのような機械を用いないのは、ラジカセやコンポ、名刺サイズからカーラジオに至るまで、受信機がまちまちで調査用の機械を統一できないから。首都圏では年6回、4・6・8月は各2週間、10・12・2月は各1週間、各調査月の中旬から下旬にかけて実施。北海道は年2回で、最近では2002年5月27日(月)からの1週間調査が行われたらしい。

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