月刊コラム page 19.
 人口急増中高速バスで東京直結の吉川・松伏


 そもそもこの地域をネタにしようと思い立ったのは、JRバス関東が2000年10月に東京〜吉川・松伏を結ぶ高速バスを運行開始したからであります。吉川市は、埼玉県内の市ではさいたま市の次に新しく、平成8年に市制施行。その北隣・松伏町は、人口30,000人にもうすぐ手が届くニュータウン地域であります。


吉川駅南口・黄金のナマズ像

【吉川といえばナマズでしょう】

 ……と言われても、困っちゃいますよねぇ。でも、当コラム第5回でご紹介したように、埼玉新聞社がまとめた「21世紀に残したい・埼玉ふるさと自慢100選」の“物産・食文化部門”で第1位に輝いてしまったんですから、しょうがない。潔く認めましょう。

 吉川も松伏も、西側を古利根川・中川、東側を江戸川に挟まれており、昔から川魚料理が名物でした。ウナギを名物に掲げている浦和の向こうを張ってか、吉川は(ウナギも獲れるんでしょうけど)ナマズをプッシュしております。JR武蔵野線・吉川駅に降り立ち南口へ出れば、駅前ロータリーの真ん中で出迎えてくれるのは、紛うことなき黄金のナマズ様(写真右→)であらせられます。……いーえ、決していかがわしいものではありません。

ラッピーランド
 高架の駅をくぐって北口へ足を転じれば、吉川市の観光案内所を兼ねたナマズグッズのお店「ラッピーランド」があります。お店の看板にも描かれているナマズのマスコットキャラクターが“ラッピー”らしいんですけど、何故“ラッピー”っていうんですかねぇ。ちなみにナマズを和英辞典でひいたら“catfish”でした。
 そして、こういう観光名物ができると間違いなく生まれるのは、あらゆるお菓子の数々。ここ吉川にも、案の定ありました、(写真↓左から)なまずせんべいに、ナマズパイに、ナマズクッキー。せんべいはラッピーの焼印入り、パイは輪郭がナマズっぽい、クッキーはラッピーの型押し付き。いずれも、ナマズの肉は入っていないという点では、岡部町のブロッコリーせんべい・ブロッコリークッキーに水をあけられています(←競ってないってば)。せめてせんべいぐらいは、ナマズの肉を入れてみるというチャレンジをやらかしてみても、バチは当たらないと思うんですけど。

ラッピーのお菓子

 あとは、吉川駅北口に「よしかわ天然温泉 エメラルド・マリンという日帰り温泉施設があります。10:00〜23:00、貸しタオル・浴衣付きで大人1,500円・こども700円。大人は17時以降、浴衣なしで1,000円になります(浴衣300円)。




高速バスのチラシ(クリックすると拡大)

【高速バス:東京〜吉川・松伏ルート】

 このルートは埼玉県内では初めての、東京発着の昼行高速バスです(埼玉県内を起点とする高速バスは他に、近畿・東北方面へ夜行便が運行中)。(右のチラシ⇒をクリックすれば、152KBの拡大画像が出ます。)もともと吉川市にはJR武蔵野線の吉川駅がありますが、吉川市・松伏町とも、東京へ直行する放射状交通に恵まれていません。吉川の市街地からはバスで東武線越谷駅へ出るか、吉川駅から武蔵野線で南越谷(→東武伊勢崎線)・新松戸(→常磐線)乗り換え。松伏からは、バスで東武線北越谷駅・新越谷駅へ。東京から近いわりに不便なところでして、……だからといって無理に“便利”にすることもないのですが、ニュータウン開発も進んでいますし、常磐道からそんなに遠くないことも幸いして、高速バスが走り始めたのであります。
 親戚や彼女でも住んでいない限り、松伏町へ出かける機会などありませんから、2月12日(←ネタをねかせすぎ)この高速バスを体験する為に行ってまいりました。……いやまぁ、こういう動機で出かけようと思い立つ人も、かなり珍しいんですけど。

 東武伊勢崎線の複々線区間が北越谷まで伸びて、今まで越谷折り返しだった列車が北越谷折り返しになりました。松伏町民も少なからず喜んでいるのかな、と思いながら北越谷駅東口から東武バス「エローラ」行きに乗り込みました。……エローラって何よ!? 全面の行先表示は[北02]エローラとしか書いてありません。側面に回りこむと、「北越谷駅→JA松伏→エローラ」と、経由地が1ヶ所だけ。高速バスの停留所にも「JA松伏」はあるし、事前の推測から松伏バスターミナルはゆめみ野ニュータウン付近にあるらしいことはわかっているので、とりあえず乗り込んでみました。大沢・花田の住宅地を抜けて、古利根川を渡ると松伏町。バスは町役場の直前で右折して、ゆめみ野ニュータウンを通り抜けると、松伏高校。その先の「中央公民館」で下車したのですが、なんと中央公民館と棟続きの建物が“田園ホール・エローラ”でした。さっきまで乗っていたバスの後を歩いていくと、まつぶしカルチャーパーク・B&G海洋センターの一角にバスの折り返し場があって、そこがエローラバス停だったのです。なぜ「中央公民館」バス停を「中央公民館・エローラ前」と改称しないのか、さっぱりわかりません。エローラへ来るお客さんがエローラバス停まで乗り越してしまっても(←変な文章)、運賃は変わらないんだし。

 作曲家の故・芥川也寸志氏の監修のもとに、1989年に完成した“田園ホール・エローラ”は、その音響効果の素晴らしさから全国的に注目を集めているそうですが、私は知りませんでした。すぐそばを中川・古利根川・江戸川が流れていて、その洪水を防止する為の多目的調整池を中心とした広大な公園があります。近隣の住民がテニスコートやグラウンドへ自家用車で乗り付けてくるとは、ニュータウンらしい光景であります。

松伏バスターミナルで発車を待つ高速バス  住宅地をウロウロしているうちに、JA松伏前に出てきました。エローラ行のバスでさっき通ったばかりのところで、その路線バスのバス停ポールと別に、東京駅行高速バスのポールも立っています。……ふと目線を上げると、バス通りに面した空き地の奥に、見覚えのある青と白の大型バスが止まっているではありませんか。あれは紛れもなくJRバスで、なんとJA松伏前から100m足らずのところに松伏バスターミナルがあったのです。ターミナルといっても、他のバス路線が乗り入れる交通の要でもなければ、車庫や営業所もない(運転手の休憩所はある)“terminal=終点”という英語の語義に忠実な、単なる終点です。国際興業バスなら、“折返場”“引返場”と名付けるでしょう。

 高速バスは上り便も下り便も、松伏・ゆめみ野地区で左回り一方通行となるので、右下図(上のチラシ部分拡大)のように上り便は松伏BTを出てから一周してJA松伏前へ戻ってくるのです。一方の下り便は4分の3周して松伏BTに入るのでJA松伏前には停まりません(仮に停まっても、30秒後に終点に着いてしまいます)。

高速バスのチラシ・部分拡大  東京駅行き高速バスは日中でも1時間おきに運行されており、私は松伏BT14:30発のバスに乗り込みます。12分後にはJA松伏前を通過するので、12分遅く来てもいいのですが、運賃は同じですし、JA前までに満席になったら乗れません(高速バスは定員制)。……まぁ、上り便が松伏町内で満席になることはなさそうですけど。工業団地からあまり近くない「吉川・松伏工業団地入口」バス停を通り、吉川市役所のそばをかすめると、吉川団地バス停は東武バスのターミナルからはじかれて、50mほど離れたところにありましたが、乗車なし。東武は吉川団地から越谷駅(東武伊勢崎線)行のバスを出しているので、バス乗り場の一角を東京直行の高速バスへ使わせることに抵抗があったのでしょうか。
 最終乗車地の吉川団地を過ぎると、バスは来た道を戻るように北上し、江戸川に架かる玉葉橋をわたって千葉県野田市に入ります。 ……って、東京から遠ざかったじゃねーかよ! と、昨今流行のさまぁーず三村風ツッコミを織り込みながら、お構いなしのバスは松戸野田有料道路を松戸方面へ。でもこの有料道路は松戸まで届いておらず、流山ICのそばで県道松戸野田線へ合流しておしまい。さらに、常磐道流山ICへの取り付け道路というだけで100円取る(普通車)という、これまた理不尽な流山道路をあっという間に通り抜けて、流山ICから常磐自動車道を経て、首都高三郷線へ入りました。わざわざ千葉県へ出ずに、吉川からそのまま南下して三郷団地なども経由、外環三郷西ICから首都高三郷線へ入ればいいのにと思ったのですが、……どうなんでしょう。また東武バスが許してくれなかったりして。

 常磐道流山から首都高を経て都心へ向かうルートは、慢性的渋滞ポイントの連続です。まず三郷の本線料金所、首都高速に入って八潮料金所、東北道方面から合流する小菅JCT、そこから1km足らずで中央環状線と分岐する堀切JCT、そして京葉道路方面から合流する両国JCTに、湾岸方面との合流だけでなくランプにPAもある箱崎JCT、さらに急カーブと急勾配の先に分岐がある江戸橋JCT。私が乗ったときも、八潮料金所と両国合流で渋滞に引っかかっていましたが、呉服町ランプを下りてすぐの東京駅日本橋口には定刻より約5分遅れただけで到着しました。ちなみに平日の上り便だけは、首都高を向島ランプで下りて、上野駅でも下車できます(正面口向かいの営団本社前)

 私が乗ってきた東京駅行の乗客は、私を含め12人でしたが、折り返し16:20発の吉川・松伏BT行は20人くらい乗り込んだようです。休日には、東京方面へ買い物や遊びに行く人がそこそこ乗るようですが、運行開始から数ヶ月後の新聞には、「渋滞のイメージが先行して、利用客が増えない」という記事が載っていました。平日朝の上り便は、日中よりも10分余計に所要時間を見込んでいるのですが、朝の首都高速(特に三郷線〜向島線)の渋滞は激しいので、定刻運行はまず望めないでしょう。東京駅まで乗換なし・必ず座れるというアドバンテージはありますが、松伏地区から900円・吉川地区から800円という運賃も、バス・電車を乗り継ぐより若干割高ですし。でも、会社帰りでくたびれたときには乗りたくなるかもしれませんねぇ。それを見越してか、平日夕方は本数がやや増えて、東京駅発 18:50・19:30・20:20・20:50・21:40・22:00。


 【2005年4月・追記】
東京駅〜吉川・松伏の高速バスは、案の定ふるわなかったらしく、しばらくして本数が半減。三郷団地や吉川駅も経由するようになりましたが、巻き返しはかなわず、とうとう2005年4月1日からは東京駅22:30発・松伏BT行」と「東京駅24:00発・吉川おあしす行」の片道2本だけになってしまいました。



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