東雲の親孝行計画・やすらぎの栃木路 その3 BACK【その2】へ戻る【その4】へNEXT

【11月7日】土曜日
 はりきって出発進行! ……さて、どこへ行くの?

 6:30 枕元のラジオのタイマーで、TBS「土曜ニュースプラザ」が大音量で流れ出す。オープニングテーマ『OMENS OF LOVE/T-SQUARE』で目覚める。朝食を取り、のんびりと新聞に目を通していると、父も起きてきた。

 7:45 家を出て、鴻巣駅前のレンタカーの営業所へ徒歩で向かう。
 8:05 店を開けたばかりのレンタカーの営業所に到着、大学生協で買ったクーポンを出す。係のお姉さん曰く、「こちら(当営業所)ではミニカーのお取り扱いがありませんので、1,500ccのお車になってしまうのですが、……よろしいですか?」……ここでよろしくないと言っても、どうしようもなさそうである。むしろ、指定したクラスよりも3段階上の車種に、ミニカーの料金で乗れるというのはありがたいことだ。

 駐車場へ出て、こちらですと案内された白い車は、三菱「ランサー」。どういうわけか、栃木ナンバーを付けている。車体のキズをあらかじめチェックし、車検証などの書類とキーを受け取ると、出発準備完了。生まれて初めて、(誰も乗せずに)独りで車を走らせる。狭い道でのすれ違いにひやひやしながら、家まで回送する。家の前の路地へバックで入れていたら、その音に気づいた両親が玄関先へ出てきた。予定よりも大きい車が来たことに驚き、栃木ナンバーがついているのを見てニヤニヤしている。

 9:10 母はパートへ出かけた。弟は10時頃に起きるらしく、まだ寝床の中。私と父は、荷物を後部座席へ積み込んで、いよいよ出発。……栃木県矢板市にある父の実家へは、高速道路を使えば3時間前後で着いてしまう。暗くならないうちに到着すればよいので、とりあえず寄り道しながら行くことになっているが、経由地もよく決めないまま、県道・鴻巣加須線を加須市へ向かって走っている。

 家から持ってきたガイドブックを助手席でめくっている父が、おもむろに「足利へ行ってみるか?」と訊ねてきた。私自身は特に希望する行き先がないので、へーいと一声返事して、国道122号線へ進路変更する。原付の免許しか持っていない父は、「しょっちゅう助手席に乗るから、ナビゲーターばっかりやってるんだよね」と、かなり年季の入ったナビゲーターである。おかげで、初めての道でも運転に専念できるというものだ。

 利根川を渡り、館林市内を抜け、国道50号線に合流し西へ向かう。交通量の多い中を平均時速70kmで、どうにかこうにか前の車についていくが、ときどき右側を地元ナンバーがすいーと追い抜いて行く。稲刈りが終わった直後で、田んぼでもみがらを焼く煙が行く手を遮るが、あっという間に突き抜ける。足利市内へ右折するポイントで右車線へ寄っていたら、立体交差で側道に入らなければならず、交差点の直前であわてて左車線へ移る。この時は、我ながら意外に危なげなく車線変更できた。

 10:40  足利市街へ入りつつあるが、足利で何を見るか、まだ決まっていない。ひとまず市街の手前のレストランへ入り、コーヒーとピザで小休止。父は実家と会社へ電話を入れたらしい。再出発後は東武足利市駅に立ち寄り、観光案内所でパンフレットを手に入れて、最初の行き先を織姫神社に決めた。

 11:20 市街の西北部にある両崖山の中腹にある織姫神社は、絹織物の産地らしい名前である。雑木林の合間から、足利の町並みの眺望が開ける。JR両毛線、年代もののトラス橋が架かる渡良瀬川、その奥に高架を走る東武伊勢崎線。山のすぐ下には足利短期大学があり、「織姫祭」開催中というアドバルーンが上がっている。しかし、純粋に観光をしている父子は関心を示さず、次のポイント:鑁阿寺(ばんなじ)へ向かう。

 鑁阿寺は、室町幕府初代将軍:足利尊氏の菩提寺だそうで、周囲の堀と庭園の手入れが行き届いている。足利市駅から織姫公園へ向かう途中にその堀端を見かけ、あんまりきれいに手入れされているもんだから、通りかかったその場で次の目的地に決定したのである。境内をぶらつき、裏門に回ると門前に小さな食堂があり、タイヤキを焼いている。迷わず、1匹ずつ買い求めた。

 鑁阿寺のすぐ南東側に、これまたお堀に囲まれて足利学校がある。東側を廻って入り口まで来たが、入場料を取るらしい。純粋に観光している父子ではあったが、父が「……どうする?」と消極的に問い掛けてくるので、「……よろしいんじゃないですか?」と消極的な返答をして、とっととクルマへ戻る。

足利フラワーパーク駐車場にて  13時を過ぎたので、そろそろ昼食の心配をし始める。ピザだのタイヤキだのを間食しているので急を要しないが、佐野でラーメンを食べようという雰囲気になる。その前にもう一ヶ所ということで、足利フラワーパークへ立ち寄ることにする。
【右写真:足利フラワーパーク駐車場にて→】
 日本最大級の藤棚が売りらしいが、晩秋のうすら寒い日は閑散としている。この時期は、さざんかと、パンジーと、なごりのバラと、なぜか熱帯性のスイレンが咲いていた。園内を一回りしたが、屋外を歩き回っている客は私たちだけ。あとは、植え替えの係員だけ。帰りがけに、クラブハウスのようなところでおみやげを大量に買い込む。ブルーベリーパイ、クリームチーズマフィン、栃木限定「おっとっと」宇都宮餃子味、みそかつにんにく(「かつ」は「かつお節」らしい)などなど。

 14:10 日和が日和だけに寒々しい印象ばかり残った足利フラワーパークを後にする。佐野市街が近づき、県道沿いにラーメン屋が現れはじめる。しかし、駐車場がなさそうだったり、道の右側にあったり、また入れそうな店が見つかっても気づいた時には通り過ぎてしまったりして、結局佐野市内でラーメン屋には入れなかった。それでも昼食にラーメンを食べる腹積もりは変わらず、佐野市の東隣りの岩舟町に入って、ようやくラーメン屋に入った。父は味噌ラーメン、私はトンコツネギラーメン。……醤油ベースの佐野ラーメンとは程遠いものを、二人とも食べてしまった。

 15:20 当初の思惑から大きくかけ離れた昼食を食べ終え、再びクルマを走らせる。進路を北へ取り、栃木ICからいよいよ東北自動車道へ乗ることにする。土曜の夕方は比較的交通量が少なく、すんなり本線へ合流。ところが鹿沼IC〜大谷PAの間は片側3車線化工事の最中。車線規制はないが路肩を締め切ってあり、左車線ギリギリに工事用フェンスが立っている。すぐ左側に余裕が全くなく、すぐ右側は速い車が追い越していくのではみ出せない。比較的遅い車の後ろについて走っていたが、それでも平均時速90km前後である。左側からのプレッシャーのせいで、鹿沼〜大谷間だけで随分くたびれてしまった。気がつけば、助手席の父は舟をこいでいる。宇都宮ICを過ぎれば矢板ICは間近だが、急に眠気がよぎったので、宇都宮〜矢板間の上河内SAに入って一休み。涼しい屋外の空気に当たり、一つ大きく伸びをして、すぐにまた走り出す。

 まもなく矢板ICへ到着。父のクレジットカードでさっさと通り抜け、ほんの1km程度で父の実家へ到着。実家の裏の駐車場は信用組合のものだが、土日なので問題なかろうと独断で止めてしまう。車を降りて、ドアを閉めようと手を掛けた時、指先にバチッと刺激が走る。もう静電気の季節なのかぁ、と晩秋の夕暮れに一瞬だけ感傷に浸ってしまった。一人住まいの祖母を交えての夕食は焼き肉。その晩はあんまりくたびれたので、9時に寝床に入ってしまった。


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