【発端】鉄メディア×鉄な位置ゲー×そして広探

 「鉄メディアサミット」というイベントに、リアル桃鉄がパネラーとして呼ばれた、ということをtwitterのタイムライン上で知ったのは、たしか2月の中頃だったか。3月8日(火)18:30〜21:00、会場は慶応義塾大学三田キャンパス。コロプラとかケータイ国盗り合戦とか、Yahoo!路線情報とか駅探とかの間に挟まって、こんな珍妙な遊びをいいトシこいた大人がマジにやってます、というプレゼンをやるらしい。……印刷屋にとって3月は最多忙期で、9時や10時まで残業もザラなのだが、当日になって仕事の量がスッと落ち着いたので、周囲が年度末の仕事に追われる中をスルリと職場から抜け出してきた。

 「鉄メディアサミット」を主催する慶應義塾大学小川克彦研究室の小川教授による基調講演には残念ながら間に合わなかったが、鉄道利用者を対象としたさまざまなネットサービス=“鉄メディア”の開発者や広報担当の方々が入れ替わり立ち替わり、自社のサービスについて思い入れたっぷりに語って時間が押しまくる2時間半。リアル桃鉄チームは、終盤の「鉄な位置ゲー サービス紹介&パネル討論」の4者に名を連ねていた。事前に「笑いを取りに行きます」と宣言していたしーなねこ氏は、同席したkasahi氏・あまやん氏・korora氏との掛け合いも功を奏して、「M-1の1回戦突破ぐらいの笑いを取れた」と手応え十分。twitter上でも、聴衆や登壇前後のパネリストがイベントの模様を逐一tweetし、「受付も壇上も美人が多い」「しーなさん面白すぎる」の2点で大いに盛り上がっていた(そのときのtogetterを別ウィンドウで)。

 「鉄な位置ゲー」のパートを仕切っていた もりちゃん氏(@morichannet)が、たかだか45分では時間が足りない、各サービスの魅力を伝え切れていない、特にリアル桃鉄の面々にもっとツッコミたい……と思ったかどうか、なんと「鉄な位置ゲー」だけでイベントを立ち上げると表明された。その名も“東日本大震災復興支援 鉄な位置ゲー トークバトル 〜乗り鉄の新たな楽しみ〜”日時は4月24日(日)18:00開演、会場は@niftyが運営するライブハウス・東京カルチャーカルチャー。その中で、リアル桃鉄チームは「第二部 リアルすごろくとネットの融合」というパートで、広島電鉄を使ったすごろくゲーム「広探ゲーム」と“共演”することになった。広島電鉄・略して広電は、現存する日本の路面電車の中で最も充実した路線網をもっており、リアル桃鉄でも使えそうだなと東雲が勝手に目をつけていたのだが、なんと既にすごろくで遊んでいる人たちがいたとは! 

 その「広探ゲーム」、3月20日に開催する予定だったのが、東日本大震災の直後のゴタゴタで4月へ延期となり、程なくして「4月17日(日)に開催決定」とアナウンスされた。なんとまぁ、図ったように“鉄な位置ゲー トークバトル”のちょうど1週間前。“トークバトル”で私は登壇するわけではないのに、“敵情視察”に行かなきゃという勝手な使命感に駆られて、東京から参戦することを決意。
 もともと4月24日の“鉄な位置ゲー…”には観客として一緒に参加する予定でいる妻に、かくかくしかじかで広島へ行くという話をしたところ、「いいけど、……私は連れてってくれないの?」と。1泊2日の強行軍になるが、当人が行く気なら、連れて行くことはやぶさかでないので、土日を使って二人で広島へ出かけることが決まった。


【4/16(土)】妻のルーツ?の地×八重桜×お好み焼き

東京駅16番ホーム発車案内板  1泊2日の行程は、ついつい朝早く出発しがちだが、あえてゆっくり、東京駅9:50発ののぞみ号を選んだ。まず新幹線を選んだ理由は、飛行機のツアー商品の申し込み期限が意外と早い(9日前とか)点と、広島空港が市街地から離れていて(高速バスで50分)、東京―広島を4時間で結ぶのぞみ号とあんまり変わらない点、そして新幹線のツアー商品の方が安い点。
 それから出発時間を早くしなかった理由は、二人とも前夜遅くまで働いていることが見込まれ早起きがきついと思った点、そして寝過ごさないように広島止まりののぞみ号を選ぼうと思ったら、定期列車の広島行は9:50発の〔のぞみ103号〕が一番早かった点(〔のぞみ101号〕は休日運休)

 N700系は、東海道区間で最高270km/h、山陽区間で最高300km/hのスピードを出す。リアルタイムな速度表示は見えないが、床下から聞こえるモーター音の上がり下がりで、加速してるか減速してるかぐらいは分かる。500系には乗ったことないので、列車で300km/hを体験するのは初めてなのだが、意外とガタガタこまかく揺れるんだなぁ。……隣席の妻は、時速何百キロ出そうがお構いなしに夢の中である。

 13:59、広島駅に到着。当初の予定では、広島駅前に予約したホテルのチェックインが14:00からなので、新幹線を降りたらすぐチェックインして荷物を置いて、身軽になって出かけようと考えていたのだが、まずは駅構内で遅めの昼食、そしてそのまま列車を乗り継いでいくことにした。新幹線改札を出ずに、居酒屋っぽい構えのお店に入り、穴子丼と穴子とじ丼を注文。厨房の方から「チーン」という高らかな音が聞こえてきたのも、おばちゃんが「親子丼」と言いながらとじ丼を持ってきたのも、まぁご愛敬。
穴子丼 穴子とじ丼

 食事を終えて、乗り換え改札を通り抜けて在来線のりばへ。南口改札と直結している1番ホームから、広島色の115系4両の普通列車・岩国行きに乗り込む。JR西日本は今後、経費節減のため車両の単色塗装化を進めることを表明しており、その第1弾として発表されたのが、広島・岡山・米子地区の電車を黄色べったりに塗るということ。……わざわざ一斉に塗り替えるのではなく、車検で塗り直すときに従来の色ではなく地方ごとに決めた1色で塗るので、JR西日本全域(京阪神のアルミ・ステンレス車は除く)で塗り替わるのは8年がかりになるらしい。今回の旅で自分が乗った列車に黄色べったりの車両が当たることはなかったが、たまたま向こうのホームに可部線の105系が黄色べったりで来たので、一応撮影しておく。……福塩線の105系がもともと黄色地に紺帯だったので、そんなに違和感ないな。それよりも、見た目は同じ115系で「3扉セミクロス」「3扉転換クロス」「2扉転換クロス」と客室部分のバリエーションが豊富なことにカルチャーショックをおぼえた。
115系広島色 105系黄色べったり

 広島駅から岩国行きに乗ったということは、宮島へ行くド定番コースか……と思いきや、二人とも宮島には行ったことあるので、今回は車窓のみ。「宮島へ“お上がり”の方は、駅前の地下道を通って……」という独特なアナウンスを聞きながら、大野浦を過ぎて駅間が長くなったあたりで車内巡回を始めた車掌さんをつかまえて、乗り越し精算。交通新聞社西日本支社が制作した『携帯全国時刻表』に載っていないが、広島市内は五日市までなのね。

 大竹を過ぎると、広島県から山口県に入る。やはり県境をまたぐ乗客は少ないな。この列車は岩国止まりで、同じホームの向かい側の新山口行きに乗り継ぐ……が、落ち着く間もなく2駅目の藤生(ふじゅう)で下車。

 かつて東雲と名付けられた土地をひとり旅で訪ね歩いていたが、今回はそのスピンオフ企画と言えるかどうか、妻の旧姓である“藤生(ふじう)”にちなんで、広島から普通列車でちょうど1時間、岩国市藤生町へやってきた。……といっても、藤生姓のルーツは栃木・群馬あたりにあるんだそうで、山口県岩国市とはどういう関連があるのか、はたまた偶然の一致なのかよくわからないまま、せっかく広島へ行くんだからという安直なノリで現場を踏むことになった。

藤生駅 駅名標  読みがなは「ふじう」ではなく「ふじゅう」。ちなみに一つ手前の南岩国まではICOCAが使える。ここ藤生駅は出札窓口が土日休業。
非公式・駅前地図
 駅の周りには藤生郵便局に藤生幼稚園、藤生港にシャディサラダ館もあるらしい。ちょっと足を伸ばせば、国立病院機構岩国医療センター・山口県立岩国総合高校もある。
河口と港と煙突
 右手は瀬戸内海。左手奥の煙突は、岩国火力発電所。
市営バスの藤生駅バス停
 市中心部から医療センターのあたりまで、岩国市営バスが走っている。列車よりも本数が多い。
藤生郵便局
 バスが走る国道188号線(対向2車線、歩道らしい歩道はない)よりも1本山側の、郵便局がある通りのほうに、食料品店とか雑貨屋とかが集まっている。駅の目の前にも、お酒やらお惣菜やら野菜の苗やらを扱うナンデモ屋がある。コンビニはない。

 30分以上かけて一回り、帰りの列車に間に合うように駅まで戻ってきた。券売機で650円の乗車券を購入。跨線橋をわたって上りホームへきてみれば、やってきた列車は瀬戸内色の115系だった。この列車は広島の先の白市まで行くから、乗り換え不要なのがありがたい。……と言っても、広島市内に戻ってきて最初の五日市駅で降りてしまう。駅北口からはシャトルバスが出ているらしいが、……あったあった。既に停まっている山田団地行きを見送って、シャトルバスを待つ。PASPYもICOCAも使えるらしいが、どちらも持っていない東京のPASMOユーザーなので、現金あと払いである。
「花のまわりみち」バス案内立て看板 シャトルバス
 大阪の春の風物詩“桜の通り抜け”で有名な造幣局本局から八重桜を分けてもらった造幣局広島支局が、桜が根付いて見ごたえが出てきた平成3年春から“花のまわりみち”と銘打って一般公開した、と造幣局ホームページより抜粋。本家大阪の“桜の通り抜け”には行ったことないが、せっかく八重桜の季節だし、シャトルバスも出ているということなので、造幣局広島支局へ来てみた。ただし、五日市駅北口からバスに乗った時点ですでに夕方5時半。“花のまわりみち”は日没後もライトアップを行い、20時まで見られるのだが、シャトルバスは17:45が最終だそうで、帰りは路線バスか徒歩しかない。まぁ帰りのことは帰る時に考えるとして、いざ八重桜見物。すでに日は西に傾き、赤みを帯びた日ざしに桜の花がどう映えるか分からんが、とりあえずデジカメやら携帯カメラやらを向けてみる。


 6時を過ぎて、日は西の山に沈んでしまったが、まだライトアップが始まるほど暗くはない。小腹がすいてきたような気もするが、どうせなら宿のそばでビールなんぞ傍らにお好み焼きを食ってとっとと部屋へ戻るような動きが理想的ではある。シャトルバスは6時前に運行終了したが、路線バスで五日市駅か広島市中心部の方へ出たいと思っていたところ、長く歩くのを得意としない妻が珍しく「五日市駅まで、腹ごなしに歩こう」と言い出した。たしかに、2時半に穴子丼の昼食をとったので、まだ6時ではがっつり夕食という気分にならない。さっきシャトルバスで通り抜けてきた“コイン通り”を、バス車内でもらったコイン通りの案内チラシを片手に南へ向かって歩き始めるが、徒歩で五日市駅までどれだけかかるか分からない。途中で「府中焼き」のお店を見つける。広島県内でもお好み焼きのスタイルは色々あるようで興味深いが、「せっかく広島まで来たのに、なんで府中のお好み焼きを食べるの」と妻の反発が意外に強いので、東京都府中市ではなく広島県府中市のことだよと説明し、納得してもらう。さらに「東京で広島式のお好み焼きを出す店はあるが、府中焼きを出す店はまずないだろう」と説得して、お店の戸を開けてみたが、貸し切り予約が入っている、と入店不可だった。残念。
ウサギの弁天様 白蛇の石像
 日中は暖かかったが、日が暮れると風がひんやりしている。造幣局の門前の商店街“コイン通り”には、十二支や招き猫、鯉やフクロウなど縁起物の石像が立っている。金持稲荷神社とか金持地蔵とか、鳳凰堂神社とか願いを伝える金色の公衆電話とか、かなり念入りに開運の町づくりをしているようだが、チラシにはシャトルバス以外のバス停の位置が示されておらず、駅まで歩いて何分かかるかも書いていない。歩道を歩いていても、この交差点をどの方向へどれだけ歩けば駅なのか、というような案内表示が見当たらない。わざわざ電車に乗って遠くから来るような人のことを想定していないのだろうか。桜の季節以外にも、こういう縁起物が好きな人は一定数いるはずだから、もうちょっと観光客がうろうろしやすくすればいいのに、もったいない。
 コイン通りをひたすら南下、JR山陽本線と広電宮島線をまたぐ陸橋を上って下りて、国道2号線に到達。たらたら歩くこと1時間弱、午後7時を過ぎて広電の佐伯区役所前駅までたどり着けば、運よく電車がすぐにやってきて、空席を2人分確保できたのは、コイン通りのご利益か。ここから広島駅前まで約50分、電車に揺られて二人ともウトウト船をこいでいた。
コイン通りの夕暮れ 広電宮島線の連節電車
 広島駅前に着いたら、もう8時を過ぎていた。JR広島駅前に建つ広島東郵便局の裏手、ホテルニューヒロデンにチェックイン。駅からホテルまでの間にもたくさんお好み焼き屋が立ち並んでおり、さらに駅前のビルの1フロアにお好み焼き屋が十数軒入居する「駅前ひろば」というスポットもあり、ホテルのフロントでもらってきたチラシやフリーペーパーなどをめくりながら、どこで食べようか思案したが、リアル桃鉄で知り合った広島出身のumiさんがtwitterを通して “駅ビルの『麗ちゃん』、横川駅の『得』がオススメ。有名なのは『八昌』” と教えてくれたので、駅ビルASSEの2階にある麗ちゃんに決めた。駅ビルの1つのフロアの1つのブロックにお好み焼き屋が5〜6軒集結していて、そのほとんどが白地に赤い字ののれん。その中で「麗ちゃん」が行列こそできていないが最も混んでいるのは、一番手前にあるからという立地条件だけではなさそう。ちょうどカウンターが2席あいているというので、迷わず入店。カウンターの外側に座るお客さんと同じくらい、内側に立って調理するベテラン店員さんがひしめき合っている。小麦粉を水でといたところに具を全部混ぜて焼く大阪風ではなく、生地をクレープみたいに薄く焼いて、キャベツ・もやし・めん・肉などを別に炒めてからギュウギュウ重ねていく広島スタイルを目の前で見つめながら、ビールでのどを潤しつつ焼き上がりを待つ。

 ようやく運ばれてきた。私は(10)イカ天・そば入り(写真左)。妻は(12)スペシャル(生エビ生イカ)そば入り+チーズのせ(写真右)。隣の席のカップルは1枚だけ注文してを半分こしているようだが、こっちは遠慮なくガツンと1枚ずつである。……今思えば、ここで1枚だけ頼んで、店を変えてもう1枚食べればよかったかなぁと、ほんのり後悔しているが、これはこれで奇をてらわぬ正統な広島お好み焼きとしておいしくいただいたので、結果オーライである。
Iイカ天・そば入り Kスペシャル・そば入り
 店を出て、9時半。駅ビルを出ると左手からぞろぞろと赤い一団が引きも切らない。駅から10分ほど東へ歩いたところにあるマツダZoom-Zoomスタジアム広島で、広島×巨人のナイトゲームが行われていたようだ。胸ポケットに携帯ラジオを入れているので、RCCラジオで野球中継を聞いていれば試合経過や結果を追うことができたのだろうが、こっちはお好み焼きに夢中でそれどころではなかった。ホテルへ戻る道すがら、コンビニで甘い物を買っていく。部屋でデザートを食べながら、ホテルのサービス案内をめくっていたら、ルームサービスでもお好み焼きを出していることを知った。「お好み焼きに限り日曜・祝日はお休み」と書き添えてあり、近所のお店から持ってきてもらうのだろうか。でもやっぱりお好み焼きは、お店で焼きたてを食うのがうまいと思う。



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