月刊コラム page 17.
 川崎も直結埼玉高速鉄道ついに開業


 ついに、というか、とうとう埼玉高速鉄道が3月28日に開業してしまいました。3月23日(金)には毎日新聞が「県内初の地下鉄」と銘打って、カラー特集を折り込んできました。営団有楽町線の終点が和光市なのはどう説明するのか、などと鉄道マニアの自己顕示欲以外の何物でもないツッコミはさておいて、一般マスコミが情報としてあまり流さないようなところも交えながら、あれこれお伝えいたしましょう。

  ≪7号線≫

 東京の地下鉄は、最初は民営(東京地下鉄道株式会社)で走り出し、戦時中の交通統制の一環で帝都高速度交通営団へ移管されました。その後、東京・名古屋・大阪の三大都市圏における高速交通網の計画・指針を示したのが、1955年に設けられた運輸省の諮問機関:都市交通審議会でした(現:運輸政策審議会)。そして昭和60年に出された答申の中で、昭和75(2000)年までに整備することが適切な路線として、「(7号線)目黒―清正公前(現・白金高輪)―永田町―市ヶ谷―駒込―岩淵町(現・赤羽岩淵)鳩ヶ谷市中央部―浦和市東部」と記載されています。早い話が、営団南北線と埼玉高速鉄道のことです。さらに、平成12年に出された答申の中では、平成(2015)27年までに“岩槻を経て蓮田方面へ延伸”すべき、と記されています。
 7号線の都内部分は平成3年に開通した 赤羽岩淵―駒込間を皮切りに、営団の手によって昨年9月に目黒まで全通。そして赤羽岩淵以北の埼玉県内を建設・営業するために、平成4年3月に埼玉高速鉄道株式会社が発足したのです。埼玉県・沿線3市(川口・鳩ヶ谷・浦和)・帝都高速度交通営団・あさひ銀行・東武鉄道・西武鉄道・国際興業などが出資する、いわゆる“第3セクター”の鉄道会社です。
 ちなみに運輸政策審議会答申の中で、1号線は銀座線ではなく現在の都営浅草線と北総開発鉄道で、番号と路線ができた順は一致していません。埼玉関連では他に13号線(志木―和光市―小竹向原―新線池袋―新宿―渋谷)が、東武東上線 和光市―志木の複々線を含んでいます(今のところは有楽町線=8号線として運行)。また、都営大江戸線はつい最近まで「12号線」と呼ばれていましたが、これも光が丘から大泉学園北部を経て新座市付近への延伸が答申に盛り込まれています。

  ≪日本一高い?地下鉄≫

運賃ハネ上がり比較  最低運賃(いわゆる初乗り)が 3kmまで210円に設定され、新聞などで「日本一高い地下鉄」と書き立てられました。ところが、全面的に他者をさしおいて割高、というわけではなく、左図のとおり、2区間目以降は他社にあっさり抜かれてしまうのです。
 2社とも、運輸政策審議会の答申に基づき、千葉県内に敷かれた第3セクター鉄道です。北総開発鉄道は、京成高砂で京成線から分岐し、鎌ヶ谷市・船橋市北部を経て、千葉ニュータウンまでの路線。都営浅草線を主体とする答申1号線の一部です。一方東葉高速鉄道は、営団東西線の延長(答申5号線)として、西船橋から習志野市・八千代市を貫いて勝田台に至る路線です。……やはり、ごく最近になって建設された鉄道は、運賃が高くなりがちですねぇ。
 ここで注意しなければならないのは、埼玉高速鉄道だけでは都心へ出られないということ。そのまま営団地下鉄に入ると、営団の運賃も加算されるので、さらに割高感が強まるのです。例えば浦和美園から麻布十番まで、埼玉高速(14.6km)460円+営団(17.7km)230円=690円。仮に全線営団だとすれば、32.3km=300円、JRなら540円。単純比較はできませんが、……まぁ、そういうことです。

 埼玉高速鉄道の沿線は、今まで路線バスしかなかったので、地下鉄のおかげで通勤時の渋滞に巻き込まれる心配はなくなりました。鳩ヶ谷市中心部から赤羽駅まで、バスなら(道が空いていれば)約30分、260円。一方、埼玉高速線で鳩ヶ谷から赤羽岩淵まで8分、300円。ほぼ全区間において、並行する路線バスよりも埼玉高速線のほうが高いという事態が発生しています。もちろん、バスを乗り継いだらバスのほうが高くなりますけれども。

  ≪バス路線再編≫

 鳩ヶ谷市の北のはずれには、国際興業の鳩ヶ谷営業所(鳩ヶ谷車庫)があり、そこから徒歩6〜7分のところに浦寺案内所(鳩ヶ谷バスターミナル)がありました。赤羽・川口・西川口・蕨の各駅から、鳩ヶ谷市街を通って鳩ヶ谷BT行のバスが毎時4〜6本程度運行されていたのですが、地下鉄開業に伴い、バス路線網は地下鉄鳩ヶ谷駅を中心に再編され、鳩ヶ谷BTは廃止されました。地下鉄に並行するバス路線(赤羽駅〜鳩ヶ谷、東川口〜鳩ヶ谷など)は半分程度に減らされたのは分かるのですが、背骨の地下鉄に対してあばら骨にあたる鳩ヶ谷〜西川口駅も、毎時5〜6本から毎時3本(休日は毎時2本)に大減便されました。鳩ヶ谷市街から最も近いのが、京浜東北線の西川口駅なので、西川口経由で東京都内へ出ていた人も地下鉄へシフトするだろう、と思ったのでしょうが、鳩ヶ谷市から浦和・大宮へ出るのがいっぺんに不便になってしまいました。まさか、「鳩ヶ谷〜<地下鉄>〜東川口〜<JR武蔵野線>〜南浦和〜<JR京浜東北線>〜浦和・大宮」という高くて面倒な細かい乗り継ぎを選ぶと思っているのでしょうか。

 さて、埼玉高速鉄道を試しに乗ってみたいけど、単純往復はつまらない、とおっしゃるごく少数派なマニアの方へ、帰りの別経路のご案内。
川口元郷駅上の公園から、エルザタワー55を望む
赤羽岩淵
JR赤羽駅から徒歩10分。路線バスもありますが、バス停1つ分ですし、23区内だから200〜210円かかるし。夕方から夜にかけては客引きがうざったいですけど、商店街もありますから、さっさと歩きましょう。
川口元郷
JR京浜東北線の川口駅東口1・2・3番乗り場から、川口元郷駅経由のバス(川02・川04・川14・川15)が頻繁に出ています。川口駅から歩けば、約20分。川口元郷駅と芝川をはさんで西に隣接するダイエー川口店を目印に行きましょう。ちなみに、ラジオCMでよく耳にする「♪川口元郷パチンコふじ〜」は当然のように駅構内に広告を出していますが、少々駅から離れていますので要注意。 (写真右→:川口元郷駅上の芝川公園で開業記念イベント。奥にそびえるのは、日本一の高層マンション「エルザタワー55」。)
南鳩ヶ谷
JR川口駅からのバスは1系統だけ(川07)それも35〜40分間隔(日祭日ダイヤ)なので、あてになりません。西川口駅から南鳩ヶ谷駅入口を経由する市立高校循環(西川05)は、平日は日中50分間隔、土曜・日祭日は25分間隔という、不思議なダイヤです。
鳩ヶ谷
駅ビルにバスロータリーまで出来てしまい、鳩ヶ谷市内のバス路線は鳩ヶ谷駅が中心になっています。川口駅行(川18)・蕨駅行(蕨03)・東浦和駅行(鳩11)は鳩ヶ谷駅西口ロータリーから、西川口駅行(西川01)安行経由東川口駅(鳩05)・今回新設された草加駅(鳩06)は、分散していてわかりづらい東口バス停から発車します。なお、草加駅行は休日でも毎時1〜2本。
新井宿
国際興業バスの鳩ヶ谷車庫や、川口市立医療センターが近いので、バスがついでに新井宿駅にも寄るというケースです。川口駅行(川23)・蕨駅行(蕨06)戸塚安行駅経由東川口駅行(東川82・東川83)は毎時1〜2本程度、東浦和駅行は1時間に0〜2本あったりなかったり。さらに、川口市立医療センター発の赤羽駅行(赤20)・峯八幡宮経由川口駅行(川13-2)が、日中だけ1時間に1本程度。いずれにしても、目的地が同じでも経由地が異なる路線では運賃も変わります。
戸塚安行
東川口駅から南方に広がる戸塚地区の、それまた南に位置します。東川口駅からのバス路線は2系統(東川83・鳩05)で、毎時2〜4本程度。グリーンセンター経由川口駅行(川19)は1時間に1本、さらに東武バス[川13]川口駅〜峯八幡宮〜新栄団地という路線も戸塚安行駅に乗り入れますが、2〜3時間に1本という、話にならない頻度です。
東川口
JR武蔵野線が両方向とも、1時間に5〜6本くらい。バスは一応、浦和駅行(浦01)と岩槻駅行・越谷駅行が少しずつ走っています。それだけ。
浦和美園
浦和駅行(浦02・浦02-2)が1時間1〜2本、大宮駅行(大01)は1時間に1本程度。駅前には植木畑があっても、コンビニはありません。

  ≪地下鉄で川を浄化≫

 浦和市・川口市東部には、芝川や見沼代用水、綾瀬川などの小規模な河川が北から南へ流れています。関東平野の真ん中で、あまり高低差がないので水の流れは遅く、住宅密集地に近いところを通るので水質は汚染されやすいため、特に綾瀬川は汚染度ワースト3以内に居座るという不名誉な状況になっています。そこで、地下鉄の線路の下に導水管を敷設し、荒川の水を汲み上げて芝川・綾瀬川へ送り込むという大事業が行われることになっています。ちょうど起点の赤羽岩淵付近で荒川をくぐり、終点の浦和美園は綾瀬川と芝川の中間に位置するという線形が二重に生かされたわけです。赤羽岩淵から浦和美園付近まで約15km・高低差2.6mで、毎秒3tの水を汲み上げる計画。地下鉄部分から芝川・綾瀬川への導水トンネルが平成13年末までに完成する見込みです。

  ≪床屋さんにも聞く≫

 3月18日(日)の夕方、地下鉄開業直前の沿線地域を歩きながら、鳩ヶ谷市本町2丁目にある床屋さんに入りました。床屋さんは地元の話題・情報が集まってくる場所で、調髪してもらっている間にいろんな話をじっくり聞き出すことができるので、軽い“フィールドワーク”の情報収集にはもってこいです。
鳩ヶ谷市民センター(鳩ヶ谷駅)  月に数回、表参道(渋谷区)まで出かけるというご主人は、地下鉄開通前は
お店の目の前のバス停本町2丁目
 ↓バス 30分以上
赤羽岩淵
 ↓南北線 28分
溜池山王
 ↓銀座線 9分
表参道
と、2回乗り換えだったのが、地下鉄開業によって
お店
 ↓徒歩 10分
鳩ヶ谷駅
 ↓埼玉高速線 8分
+南北線 28分
溜池山王
 ↓銀座線 9分
表参道
と、一応乗り換えが1回減るのですが、商店街から外れた国道筋にある鳩ヶ谷駅と、埼玉高速線の運賃の高さが難であるとのこと。

 また、鳩ヶ谷駅との複合施設ビルとして、「鳩ヶ谷市民センター“Dove(ダヴ)”」(地上2階・地下3階/写真右上▲)が建設されたのですが、床屋のご主人は地下鉄に駅舎を造るなんて、ナニ考えてるのかねぇと不可解なご様子。1,000人くらいのホールも出来るらしいけど、建てればいいってもんじゃないし』とのことでしたが、よく調べてみたら、多目的ホールの席数は一桁違って195。いくら人口55,000人弱(平成13年3月1日現在)の小さな市でも、市民センターと名乗る施設のホールがたかだか200人も入らないとは、情けない限りです。

 もともと鳩ヶ谷は、日光街道(=国道4号)の脇街道である“日光御成道”の宿場町だったため、市中心部の目抜き通りでも道幅は狭く、また鉄道がなかったため開発が遅れていました。今春になって地下鉄の開通をあてこんで、床屋のご主人が知ってるだけでもマンションが4棟はできたとのこと。マンション建設で立ち退いた人と、地下鉄開通で転入する人とで、新しいマンションはほぼ完売したそうです。

鳩ヶ谷市役所(右奥)  民間のマンションは雨後の竹の子のように建ってしまいましたが、道路工事は突貫工事が追いついていません。鳩ヶ谷市役所前から、武南警察前(鳩ヶ谷駅の南隣)で国道122号と交差して第二産業道路へつながる道で、工事現場の立て看板では「工事期間:…〜平成13年3月27日」と書いてあり、明らかに地下鉄開業に合わせて道路を造っているのですが、まだ通れません。バス通り(旧街道)の市役所入口交差点を地下道でくぐるという大掛かりな工事なのですが、交差点に面した民家の軒先やベランダには、「市長殿/約束どおり平面交差で完成させなさい」などという抗議のビラやのぼりが見られます。交差点の前後に斜路ができるので、交差点から市役所前までの数百mにわたって道路を横切れなくなるからでしょうけど。

←写真左:市役所入口交差点東側のアンダーパス。右奥は、最近移転してきた鳩ヶ谷市役所)


『東雲珍奇楼』TOPへ週刊彩の国コラム・TOPへ戻る