月刊コラム page 16.
 雪の秩父路秩父三社初詣


運賃表の比較(JR・秩鉄)  初詣といえば、自宅がある地域を担当する神様(鎮守)へ行くのが道理なのですが、昨今は自宅とも用務先とも無縁な寺社へ出かけて、人ごみにもまれながらはるか彼方の賽銭箱をめがけて5円玉を全力投球し、あわよくば自分が着ているコートのフードにもお賽銭が入っていたりして、などと新年早々不埒なことを皮算用したりするものですが。かく言う私も、徒歩5分の鎮守様をさしおいて、秩父三社へ2日がかりで出かけてまいりました。2日がかりといっても、3ヶ所が恐ろしく離れているわけでも、交通が不便なわけでもなく、正月で朝寝坊して昼頃に家を出たため、2ヶ所目で冬の短い日が暮れてしまったであります。

 この冬休み、秩父鉄道が「年末・年始フリーきっぷ」を出しました。羽生〜三峰口の秩父鉄道全線をまる1日乗り放題で、なんと1,400円ポッキリ! ……これが安いのか高いのか、JRの都区内フリーきっぷが730円なのと比べてよいものかどうかわかりませんが、熊谷〜長瀞を単純往復するだけで元が取れる(740円×2>1,400円)というけっこうなサービスぶりです。
 余談ながら、地方鉄道はJRに比べてやたら高いというイメージがありますが、秩父鉄道の運賃体系をよく見ると、羽生〜三峰口(71.7km)が1,020円で、同距離のJR(1,280円)よりも割安になるのです。初乗り(〜4km)も160円とまあまあ安いのですが、12kmまでの短距離帯で「2kmごとに60〜70円ずつ」という急激な上がり方をしており、距離によってはJRの倍にもなってしまいます。
(余談のためだけに描いた右表→を参照されたし)

 さて、現在秩父鉄道で走っている車両は他社からのおさがりばかりで、急行〔秩父路〕用にはJRから譲り受けた165系急行型電車を使っています。各停用には、1960年代から新型国電として活躍した旧国鉄・101系と、つい最近まで都営三田線で走っていた6000系の2車種で、どちらも4扉車の3両編成です。
 各停は、多客時・朝夕以外はワンマン運転を行っていますが、ほぼ全駅に駅員がいるので、客室内に運賃箱などの運賃収受設備がなく、車内は(中吊りが少ない以外は)転入前とほとんど変わりません。一応改造したポイントは、(1)前頭部の行先幕を手動式に交換 (2)片側4扉のうち車端2扉を締め切れるようドア改造 (3)客室内にドア開閉チャイムを取り付け ……の3ヶ所です。ちなみに(2)は、駅構内に急カーブや構内踏切があるときや、冬期のすれ違い待ち等のときに使います。


三峯神社のリーフレット(100円)

 【三峯神社】

 そんな秩父鉄道に乗って1時間半、終点の三峰口から西武観光バスに乗り換えて15分。大輪(おおわ)バス停で降りてさらに10分歩くと、秩父鉄道ロープウェイの大輪駅。通常は毎時00分・30分発ですが、多客時にはお客さんの待ち具合を見て15・20分おきに臨時運行します。片道950円・往復1,650円、回数券が11枚で9,500円(片道の10倍)。ちなみに往復5回+片道1回では9,200円なので、回数券の存在意義がよくわかりません。片道ばかり11回以上使う人がいるのでしょうか? 25人以上は団体割引が適用されるので、「11〜24人で、登山などで片道だけロープウェイを使う場合」には有効、と考えることにしました。

 そんな不思議を抱きつつ、窓口で硬券の往復きっぷの両端に日付を入れてもらい、ロープウェイに乗り込んで8分間、山頂駅からまた15分歩いて、ようやく三峯(みつみね)神社に到着しました。山の上にある神社なので、手水場は凍っていて水がなく、代わりに小さな御幣(ごへい/神主さんがお払いの時に振る、細長い紙がついた棒)が置いてあり「左・右・左に振ってお清めください」と書いてありました。お参りを済ませておみくじを引いて、当社の紋である“菖蒲菱(あやめびし)を交通安全ステッカーお守りを買ったはいいが、……ちょいと大きな寺社なら、その由緒・縁起を記したリーフレットがありますけど、三峯神社では1部100円でした。山の上では物価が高いというのが世間の相場ですが、ごく簡単なリーフレットが無料配布でないのは初めての経験でした。ちなみに、三峰山上へは前述のロープウェイ以外に、秩父湖畔から登っていく“三峰山道路”(もと有料道路)が通っていて、よほど交通が不便というわけではありません。

 正月2日でも三峰山簡易郵便局が開いていた(〜16:00)ので、年賀はがきを買い求めて風景印を押してもらい、知り合いへ出しました。日が傾きかけた15時前に三峯神社を後にして、15:20発のロープウェイで下山。ロープウェイの方は最低でも30分おきに動いているのですが、大輪へ降りてから三峰口駅へ帰るバスが40〜90分間隔なので、都心を走るバスよりやや小ぶりな車両がやってくるまでに下山客が次々に補充されて、山あいのバス停には30人を超える長蛇の列。大輪の集落には駐車場もあるものの、クルマで来る人はそのまま山上までクルマで登っていくんだろうなぁと思いながら、私を含めた全員がどうにか乗り込んで、奥秩父に日が落ちた16時過ぎに三峰口駅前に到着しました。



西武秩父駅仲見世内  こんどの三峰口発は、西武線直通の池袋行。御花畑駅の直前で短絡線に入って西武秩父駅へ進入、その次の横瀬駅で、御花畑を出てから西武秩父線に入る寄居・長瀞方面からの編成と連結して、快速急行の池袋行になるのです。西武線直通列車の運行経路は2方向に分かれて複雑ですが(左図参照)、「西武秩父駅=御花畑駅」という取り決めがあるので、西武線直通の列車に乗って(御花畑駅の代わりに)西武秩父駅で降りることもできますし、その逆も可能です(ただし直通列車は1日3往復しかないので、わざわざ狙って乗ることもないんですけど)。


 それでも、せっかくチャンスが来たんだし、なにより自分は秩父か御花畑で降りるからどちらでもいいんだし、後発:羽生行がロングシート3両なのに対し、先発:西武池袋行はセミクロスシート4両。若者数人のグループが自分の乗換駅を知らずに「西武秩父? お花畑? 何それ!?」と口走り、駅員を困らせているのを横目に見ながら、そそくさと西武の車両に乗り込んだのであります。

 秩父鉄道のフリーきっぷを手にした私は御花畑駅を降りるつもりで、何の遠慮もなく西武秩父駅の有人改札を……通ろうと思ったら、(西武ではあたりまえの)自動改札機に今さらながら驚いてしまいました。だって(車両は西武だけど)秩父鉄道の列車を降りた意識でいるから、まさか自動改札なんてあるとは思いもしなかったんだもん(当然、秩父鉄道のきっぷに磁気化券はない)。しかも改札係が出札対応に追われて、有人改札がなかなか開かなかったりして。
 ……そんな与太話はさておき、西武秩父駅の改札外すぐのところに「西武秩父・仲見世」とかいう、飲食店とお土産屋さんが入ったアーケードがありまして、秩父の地酒や甲州ワインを扱う店や、そば屋・駄菓子屋などなど。ここ5年くらいのうちに出来たばかりの比較的新しい施設で、浅草の仲見世をイメージした棟続きの“街並み”に、正月らしく凧や玉枝などを飾ってあるのですが、そんな“純和風化努力”が見られる中に、「軽食・喫茶 ヒップホップ」というお店がありました(写真右)。和風な街並みの中に、なんとか洋風なアクセントをつけようという魂胆の上に出来上がってしまった、ネーミングの苦心が見て取れるお店です。ちなみに、この右隣にある和食処「ななかまど」とは、厨房・会計カウンターを共有しているという、これまたずいぶん安直な造りでもあります。


秩父神社

 【秩父神社】

 秩父市街のど真ん中、秩父駅から徒歩5分のところにあります。ここの冬の例祭が、12月2・3日を中心に行われる、かの有名な「秩父夜祭」であります。時期外れに行っても、夜祭の魅力を味わえるように、秩父神社の隣には「秩父まつり会館」があり、屋台や笠鉾の展示・夜祭のビデオの上映を行っています。
団子坂踏切  夜祭では、市の中心部を屋台が引き回されるので、ルートとなる街路は電線がなかったり、かなり高い所を渡してあったりします。そして夜祭のクライマックスは、御花畑駅の東側の高台にある“お旅所”へ屋台が集結する時、直前の急坂(団子坂)で高さ6m・重さ15tの屋台を引き上げるところ。このとき御花畑駅のすぐ南に隣接する「団子坂踏切」を渡るのですが、電車の架線の高さは路面から約4mなので、このままでは屋台が引っかかってしまいます。そこでその晩は「団子坂踏切」の部分だけ架線を取り外して、列車は区間運休するのです。
 現地でよく見れば、踏切の前後まで来ている架線をつなぐように、とりあえず踏切の幅の分だけの架線が張ってあるのがわかります。
 (写真左:団子坂踏切。左は御花畑駅、奥は団子坂)


宝登山神社

【宝登山神社】

 埼玉育ちの人なら、小学校のバス遠足には必ずといっていいほど長瀞を訪れたはずです。結晶片岩を荒川の流れが刻んでできた“岩畳”とその奇景を楽しむ長瀞ライン下り、秩父鉄道のSL〔パレオエキスプレス〕の愛称の由来となった海獣「パレオパラドキシア」の化石がある埼玉県自然史博物館、そして野猿公苑もあって軽いハイキングが楽しめる宝登山(ほどさん)など、理科や社会(歴史も地理も)さらにはちょいと体育にもなる課外授業をセッティングできる環境なのです。
 秩父鉄道・長瀞駅を降りると、駅前にいきなり石造りの一の鳥居が迎えてくれます。そこから、国道140号を渡ってゆるい上り坂をだらだら上りつづけること約15分。オンシーズンには、駅前から境内まで馬車も出るそうです。二の鳥居をくぐり、広い参道の片側が駐車スペースになっているところを通り抜けて、手水場から石段を登ると、鬱蒼とした杉木立の中に鎮座する神社本殿があります。
 宝登山神社は日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が東北平定の帰りに山上で三柱の神を祀ったのが起源とされ、登山途中に山火事で立ち往生した時に多くの巨犬が現れて火を消し止めたところから「火止(ホド)山」の名がついたと言われています。

長瀞のせんべい屋店頭にて  山麓の本社の裏にはロープウェイ山麓駅があり、宝登山頂へ5分で登れます。登山道も整備され、登るのに2時間もかかりませんから、宝登山神社奥宮・山上動物園などへのハイキングに適しています。また、山を下りて駅まで戻ると、駅に向かって右側の踏切を渡って徒歩数分で荒川河畔の岩畳へ出ます。夏場は上流の親鼻橋からライン下り、冬は岩畳周遊のこたつ舟、さらに舟に乗らなくても川魚料理に舌鼓を打つなど、いろいろ楽しめます。

 岩畳から駅までの狭い通りに軒を連ねる土産物屋さんをひやかすのも楽しいものですが、駅前から岩畳への踏切を渡る直前の右側にあるせんべい屋もなかなか。せんべいだけで70種類とか80種類とかそろっているという店先には、“割りせんべい”なるものがあります。よく“割れせんべい”が規格外品として安く売られていますが、ここに置いてあるのは“割れ”ではなく“割り”。値段もスーパーで買うほどに安くはありません。しかも、ご丁寧に蛍光オレンジのPOP用紙に「わざわざ割りました」と注意書きがついています。

せんべいいろいろ  70〜80種類あると大言壮語するだけあって、一歩店内に踏み入れれば、様々な味のせんべいが並んでいます。その中から私が面白そうだと買ってきたものだけ見ても、(上段左より)ニオイはきついが結構旨い「割りせんべい生ニンニク味」、醤油の薄い下味に融かしたザラメとコーヒーを合わせて塗った「コーヒー味」、同じく「まっ茶」、(下段左より)チーズおかきに近いイメージの「チーズ」、カツオ削り節がたっぷりかかった「かつお」(写真右→)
 旨かったのは、やはり生ニンニク味。消臭効果があるカテキンを含む緑茶と一緒に食べましょう。そして話題性・味ともに面白かったのはコーヒー味でした。ちなみに、もっと面白そうだった「納豆チーズ」は、……遠慮。



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