週刊
彩
の
国
コラム page 15.
県北最大級!
今秋誕生
“クレアこうのす”
で
歌
舞
伎
観劇
こういう施設ができると、前近代的ハコモノ行政と“バブル”の遺物が今さら現出してしまったんだな、と思わなくもないのですが、とにもかくにも2000年10月、埼玉県鴻巣市中央に
「鴻巣市文化センター
(愛称:クレアこうのす)
」
がオープンしたのであります。
まずは、「クレアこうのす」がある鴻巣市中央界隈
(←左図)
をざっとご案内しましょう。鴻巣市街の目抜き通り:旧中山道や国道17号線を横切って、JR高崎線・鴻巣駅から「クレアこうのす」までは1.5km。商店街がある市街地からは少し離れていますが、
埼玉県警
運転免許センター
と
鴻巣市役所
を核にして、保健所・法務局・総合体育館・市営陸上競技場が集まっています。県の農業試験場の跡地へ免許センターが大宮から移転してきてから、数年後に「鴻巣市 中央」という住所ができましたが、それまでは「鴻巣市 大字鴻巣」でした。
市役所からさほど遠くないところに市民会館があり、一応大ホールもあるのですが、成人式を開けないほどの席数の少なさ(だから成人式は総合体育館で行っていた)なので、大規模なイベントを開催できる会場を望む声がどこからか上がっていたようです。そんなわけで、
大ホールの収容人員数は1,292人
(オーケストラピット使用時は1,030人)。音響効果を調節できる音響反射板や、可動式の舞台・客席部の間仕切りなどで、多目的ホールとしての設備を持っています。他に、306人収容の小ホール、大小取り混ぜて7つの会議室、和室、チケットぴあカウンター、そして
欧風レストラン
「馬車道」
があります。
(写真右:クレアこうのす。手前はせせらぎ公園→)
各施設をつなぐメインロビーは2階にあり、けやき通りの正面入口からまっすぐなゆるい坂道(エントランススロープ)が伸びているので、車椅子でも徒歩でも楽に上がれる構造になっています。しかし奮発した収容人員数とは裏腹に、
駐車場は150台分しかない
のが、最大の弱点。休日なら市役所の駐車場も臨時解放できますが、焼け石に水。あふれた車が裏の住宅街に放置されることは容易に想定できることで、ここらへんがお役所の知恵の足らぬところなのでしょう。確かに路線バスが頻繁に走っていますが、この地域はすっかりクルマ社会なので、せめて収容人員の3分の1くらいの駐車台数を確保すべきだと思いました。
ちなみに近隣のホールは、行田産業文化会館(1,174席)、熊谷会館(1,474席)、熊谷創造文化館“さくらめいと”(1,000席)、加須市文化学習センター“パストラルかぞ”(1,005席)、桶川市民ホール(700席)、埼玉県産業文化センター“大宮ソニックシティ”(2,505席)などがあります。このうち、桶川市民ホール・大宮ソニックシティは駅から徒歩10分以内ですが、熊谷“さくらめいと”と“パストラルかぞ”は駅から徒歩20分、バスも市内循環が1日数本という不便さ。それに比べれば、「クレアこうのす」へは駅東口から免許センター行きの路線バスが出ています(170円)し、歩いても道なりに20分くらいです。
そんな「クレアこうのす」の開館記念事業には、NHK「ふたりのビッグショー」公開録画をはじめとして、美川憲一・こぶ茶バンド・速水けんたろうなど堂々たる面々が予定されている中、私が見に行ってきたのは
「松竹大歌舞伎」
であります。テレビの深夜番組で落語に興味を持って以来、いつの日か歌舞伎や狂言・能や文楽にも触れてみたいと思いつづけて早8年。大学生時代にいくらでもヒマがあったはずなのに、きっとカネがなかったからなのでしょう、国立演芸場にも上野の鈴本にも足を運ばずにいた私にとって、ようやく訪れた千載一遇のチャンスが「地元に巡業の歌舞伎が来る!」という、何とも情けないことであります。
今回の巡業の出し物は、
「
鳴神
(なるかみ)」
「口上」
「
身替座禅
(みがわりざぜん)」
の3本。
まず、歌舞伎十八番の一つ
「鳴神」
は、天皇とケンカして滝の中に竜神を閉じ込めて干ばつを引き起こした
鳴神上人
と、何とかして封印を解くために鳴神上人への接近を試みる朝廷屈指の美女・
雲の絶間姫
のお話。自らの身の上を隠して、亡き夫の形見の着物を洗いに来たと言う姫が、夫との馴れ初めを話すのを身を乗り出して聴き入っていた鳴神上人は、お堂から転落して気絶。姫は滝の水を口移しで飲ませると、目を覚ました上人は「私を色仕掛けでもてあそぼうとしても、そうはいかんぞ」と姫を突き飛ばす。「弟子になりたくてあれこれお話ししたのに、それじゃあんまりよ。私、滝つぼに身を投げて死にます」と早まる姫を止めて、上人は姫が入門することを許す。
剃髪の準備の為に弟子たちは町へ下りていった後、いきなり胸を抑えて苦しみだす姫。上人がゴッドハンドで背中をさすってやれば、「おなかも痛いから、さすってちょうだい」。女の肌に触れて正気を失った上人は、「もうこうなったら夫婦になろう」と姫を説得。契りの杯を酌み交わすうちに、へべれけになった上人は、滝つぼに渡したしめ縄の真ん中を切れば封印が解けて雨が降り出す、とバラしてしまう。
お堂で寝入ってしまった鳴神上人を尻目に、姫は崖をよじ登って、ついにしめ縄を切断。たちどころに竜神は解放されて四方八方に飛び去り、大雨が降り出したのを見届けて、姫は山を駆け下りる。そして姫にだまされたとわかった鳴神上人は、髪を逆立てて怒りまくり、なだめる弟子をもなぎ倒して、雷となって姫を追いかけるのであった。
この話のポイントは、中盤に二人きりになったときの色っぽいやりとりもさることながら、結末で怒り狂う鳴神と弟子たちの大アクション。怒りと雷鳴を表現する太鼓が力いっぱい鳴り響く中、真っ赤な隈取りをさした鳴神上人が暴れるほどに、直撃を受けた者ががトンボ返りを打ったり、弟子の一人の胸倉をつかんで頭上で振り回したり(よく見れば人形を持ち上げている)と、極彩色の照明もスモークもない素朴な舞台空間で最大限の迫力を生み出す工夫と魅力がてんこ盛りでした。
25分の休憩を挟んで、看板役者が勢ぞろいして挨拶する「お目見得口上」に続き、また20分休憩の後は、狂言を原作に持つ
「身替座禅」
。……室町時代、京都に住む大名・
山蔭右京
が関東方面へ出張の途中、美濃・野上の宿にいた
花子
と深い仲に。彼女がとうとう上京して、会いたいと手紙を何べんもよこすが、恐妻家の右京は単独外出もままならず。そこで、「最近よくない夢を見るから、1〜2年かけて巡礼の旅に出たい」と妻・
玉の井
に持ちかけるが、片時も夫のそばにいたい玉の井は猛反対。妥協に妥協を重ねた結果は、当夜だけ自宅の離れで座禅を組むということに決定、女人禁制だから侍女も近づけるなよ、と右京は釘をさす。
玉の井が去ると、右京は召使いの
太郎冠者
を呼び出し、「自分は花子に会いに行きたいから、代わりに一晩座禅してくれ」と申し付ける。奥様にバレたら怖いからと消極的な太郎冠者に、右京は刀に手をかけて脅してまで承諾させ、ニヤニヤしながら出かけて行く。 しばらくして、窮屈で大変そうだからとお茶にお菓子持参でやって来た玉の井は、衣をかぶって座禅している夫の顔だけでも見たい、と無理やりめくってみたら、なんとそこにいたのは夫ではなかった。問い詰められた太郎冠者が、身替りを強要されたことを白状すると、今度は玉の井が衣をかぶって、右京の帰りを待つことにする。
明け方に帰ってきたほろ酔い加減の右京は、そこに居るのが妻とも知らずに花子とのノロケ話を事細かに語り聞かせる。さんざんしゃべった右京が衣をめくると、阿修羅よりも恐い顔の玉の井が出てきて、びっくり仰天。
「アナタ、ゆうべはどちらへ?」
「あ、いや、その、
太宰府天満宮
」
「福岡まで一晩で行けるわけないでしょ!」
「じゃあ、あの、
善光寺
」
「ウソおっしゃい!!」
こちらは、狂言から題材を得た作品で、舞台のバックに能舞台と同じような松の木が描かれているところから『松羽目物
(まつばめ-もの)
』と呼ばれています。長唄や常盤津の連中が舞台のすそや奥に居並び、ミュージカルのように劇中で唄をはさみます。その歌詞は聞き取りづらかったのですが、セリフは平易な言葉で聞き取りやすく、特に主人:右京と妻:玉の井とのやりとりはとても楽しく、落語へ再改作できそうだなとも思いました。
同行してくれた神楽橋かなめ氏より:
わかる、わからないっていう不安はさておき、
とりあえず観てみることが大事だと感じたね〜。
台詞自体は比較的平易だし、劇として観るには
近代のものと変わりはないんだよね。
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